(文中のまま)
大人たちの集い
「BMWモーターサイクルのオーナーばかりが全国から200人近く集まる。しかも毎年1回ずつ開催されたこの集いが、今年とうとう25年目を迎える」という話を聞いて、一応BMW(中古のR100)オーナーの端くれでもある私は興味を持った。
というのは、メーカー色がまったくなくBMWの好きなオーナーだけで自然発生的に始まったということ。しかも宣伝告知のたぐいは一切しないのに、北は東北から南は九州まで200人近い人たちが皆延々と自走でやってくるというのにである。純ではないか。しかも今年は山梨県の石和温泉に集まると聞き、温泉に目のない私の心はさらに騒いだ。よし、これは是非とも参加させてもらおう……。
温泉とブドウで名高い山梨県石和町は、中央自動車道の一宮御坂ICを下りるとすぐだ。町に入って、集合場所の同温泉内にある大きなホテルに向かうと、すでに沿道の要所には、道案内をするクラブ員たちが小旗を持って待ち構えていた。全国各地で行われるこの集いは、地元のクラブが持ち回りで世話役を務めている。今年は東京にあるBMWモーターサイクルオーナーズクラブが主催者として200人を超える全国からの参加者たちに便宜を図るため大わらわで奮闘していた。
ホテルの玄関前は雨でもぬれないように大きな屋根の下となっていて、軽く100台以上のバイクが駐車できる広さもある。主催者側では、大きな屋根付きの駐車場捜しにだいぶ走り回ったと聞いた。次から次へとそこに新旧のBMWが入ってくる。サイドカーも多い。バイクやサイドカーから降りてくるライダーやパッセンジャーたちを見ると、長旅の疲れも見せずにみないい表情をしている。
参加者たちのBMWは茨城、千葉、静岡ナンバーがあるかと思えば、京都、岡山、松山、福岡ナンバーと参加者たちの走ってきた距離が見えるようだ。そんな長距離を新型のK1200RSやR1100GSでやってくる人もいれば、さらに遠いところからひたすらR50や69Sに鞭打ってやってきた人。クラウザー・ドマニに奥さんを乗せて来る人もいれば、R75/5にワトソニアンや大陸のカーを付けてくるクラブなど、その車種の多様さはさながらBMWの博物館を見るようだ。
この集いがもともとは数少なかったBMWを一般の人たちに見てもらおうと始めたものだからだと聞けば、それもうなづける。
今回のスケジュールは1泊2日。午後2時から始まる受け付けを済ませると、あとは夜の宴会まで特に催しはない。割り当てられた部屋に入って愛車談義もよし、バイクを前にレストアの苦労話をするもよし、旧交を温めるのもよしと、とにかく各自、それぞれ好きなように時を過ごすのがこの集いの自由なところでまた気に入った。
しかも意外だったのは、参加者がさぞやコチコチのBMW信奉者ばかりかと思っていたら、ハーレーやドゥカテイ、モトグッチなども別に持っているという声があちこちで上がった。
いかにもモーターサイクルを愛し、長年乗り継いできた大人たちの集いである。参加者全員が一同に顔を会わせる夕刻からの夕食を兼ねた宴会は、大会幹事長の高橋光三さんの開会歓迎の挨拶に始まり、参加各クラブの自己紹介などをはさんでなごやかに進んだ。宴もたけなわになると、広い宴会場では、久々の再会を喜び合う参加者たちの輪があちこちに出来ていく。そんななか、今までこの集いに25年間欠かさず参加した高井正雄さん、古城正雄さん、野口高宏さんの表彰や参加者への各賞授与も行われ、笑い声や歓声が夜の更けるまで続いていた。
翌朝8時30分、この集いで宴会を除けば唯一のイベントと言える全員集合写真が撮影されるというので行ってみると、すでに出発の身支度を終えた参加者たちで玄関前はごった返しているではないか。前夜、興に乗って過ごしすぎたと思われる人たちも元気一杯なのに少々驚かされた。本当にBMWに乗る人たちは元気である(私は例外)。
印象的だったのは、岡山からR69Sで自走してきた古城さんの「つい高速道でほかのバイクと張り合って、そんなとき69Sじゃちょっとつらいですね」という言葉である。いくら高性能スポーツ車とは言え、今から40年近く前に製造されたバイクを駆る60歳を超した方の話だ。しかも岡山から山梨まで優に600kmはある。まさに走り屋の面目躍如といったところだ。
どうもこの手の強者は、この集いではザラにいそうだ。BMWはひたすら走ることでその価値がわかるし、それを引き出すのが乗り手の最大の楽しみ方なのだろう。
撮影を終えた参加者たちは三々五々、来年、浜松での再会を約して元気なBMWのエキゾーストノートを響かせながら全国へと散っていった。
記事:MC別冊・松尾さん
|